問題空間と解決空間の区別
ソフトウェア開発の現場では、多くのチームが「ソリューショニアリング」という罠に陥り、問題を十分に理解しないまま解決策に飛びついてしまうことがあります。
問題空間と解決空間を区別することは、正しいデザイン思考を築くための第一歩です。
問題空間と解決空間を区別することは、正しいデザイン思考を築くための第一歩です。
- 問題空間とは、ユーザーのニーズ、行動、文脈、そして目標を探求する領域です。そこには解決策は含まれず、あるのは「ユーザーはどんな問題に直面しているのか?」「なぜその問題が起きているのか?」という問いだけです。
- 解決空間とは、特定された問題を解決するために、技術的な手段、デザイン、アーキテクチャなどの案を検討し始める領域です。
デザイン思考を持つチームは、ソリューション空間に移る前に、問題空間で十分な時間をかけます。彼らはスタックやフレームワーク、アーキテクチャを急いで選ぶことはせず、まず問題を正確かつ十分に理解することに集中します。これにより、「誰も必要としていないものを作ってしまう」という、プロダクトが失敗する最も一般的な原因の一つを防ぐことができます。
デザインマインドセットとテックファーストマインドセットの比較
比較項目 | デザインマインドセット | テックファーストマインドセット |
出発点 | ユーザーの課題 | 技術・スタック |
目標(もくひょう) | 正しい問題を解決する | 技術的最適化・パフォーマンス |
リスク | 探索に時間がかかる | 誰も必要としないものを作ってしまう |
適しているタイミング | ユーザー志向のプロダクト・MVP | R&D・技術プロトタイプ |
デザインマインドセットは技術の役割を否定するものではなく、それを正しい位置づけ――すなわち「解決のための手段」であり、「目的そのものではないもの」として捉えます。一方で、テックファーストマインドセットは、最終ユーザーにとって重要ではない要素、例えば数ミリ秒のレイテンシ最適化などに注力しがちで、ユーザーが本当に求めている「シンプルでわかりやすい体験」から外れてしまうことがあります。
デザイン段階におけるデベロッパーの役割
よくある誤りは、「デベロッパーは仕様書が完成してから関わるべきだ」と考えることです。実際には、デベロッパーは次のような点で重要な役割を果たすことができます。
- 実現可能性の明確化:一見合理的に見える解決策でも、技術的またはコスト的に実現不可能な場合があります。
- 代替案の提案:デベロッパーは、よりシンプルで効果的なアプローチを提案することができます。
- ドメインの深い理解:業務知識を理解することで、デベロッパーは「正しい」コードを書き、バグを減らし、保守しやすいシステムを構築できます。
デザインマインドセットは、デベロッパーが最初から関わることを推奨します。それは単に「正しくコードを書く」ためではなく、「正しいものをコード化する」ためです。この考え方は、デベロッパーが単なる実装者ではなく、解決策を共にデザインする共同設計者となるリーンなチームにおいて、特に重要です。
ケーススタディの拡張:社内人事管理システム
誤ったアプローチ:テックファースト
ある企業は、マイクロサービス、Kafka、Elasticsearch、そして完全なCI/CD環境を備えたHRMシステムを構築しました。しかし6か月後、ユーザーは依然としてExcelを使い続けていました。理由は、システムが複雑で遅く、実際のニーズを解決していなかったからです。彼らはパフォーマンスやスケーラビリティには多大な投資をしましたが、ユーザー体験や実際の業務プロセスを軽視してしまいました。
正しいアプローチ:プロブレムファースト
チームはまず人事担当者に密着して業務を観察し、彼らが実際に必要としているのは次のようなことだと気づきました。
- 社員情報をすばやく検索できること。
- 勤怠や休暇を追跡できること。
- シンプルなレポートを作成できること。
彼らは、Excelに近いシンプルなインターフェースを持ち、メールと連携するシステムを構築しました。その結果、導入率が高く、ユーザーからのフィードバックも良好で、拡張のロードマップも明確になりました。その後、実際のニーズに基づいて、データ分析、給与システムとの連携、自動レポートなどの高度な機能を段階的に追加していきました。
組織における思考の転換:ビルドファーストからプロブレムファーストへ
デザインマインドセットへ移行するために、組織が必要とするのは次のことです。
- 成功の測り方を変えること:コード行数や機能数ではなく、利用率やユーザー満足度を指標とする。
- 問題発見スキルの育成:デベロッパーとPMの双方を対象に行う。これには、ユーザーインタビューのスキル、行動分析、そして真のペインポイントを特定する力が含まれる。
- 早期のフィードバックと批判的思考を奨励すること:デベロッパーは要求に対して疑問を持ち、質問する権利(そして奨励)を与えられるべきである。タイミングよく投げかけられた一つの質問が、誤った方向への数週間の開発を防ぐことができる。
- ディスカバリーのための余白を設けること:スプリント0、デザインスプリント、またはリサーチ専用の時間を確保する。すべてを最初からアジャイルに進められるわけではなく、ときには「走り出す前に立ち止まって理解する」ことが必要である。
- 失敗から学ぶ文化を築くこと:すべての解決策が最初から正しいわけではない。しかし、チームが失敗から学ぶことができれば、正しい解決策に一歩ずつ近づいていく。
技術チームにおけるデザインマインドセット評価チェックリスト
- チームは、解決策を選ぶ前に問題空間の探索に十分な時間をかけているか?
- 開発者はコーディングだけでなく、設計段階にも関わりますか?
- ユーザーの視点からの効果も測定しますか、技術面だけでなく?
- 実際のユーザーからの迅速なフィードバックの仕組みはありますか?
- すべての役割からの反論や改善提案を奨励していますか?
もし回答の大部分が「いいえ」であれば、チームは気付かないうちにテックファーストの方向で運営されている可能性があります。
デザインマインドセットは長期的な競争優位です
技術が常に変化する世界において、ユーザーを惹きつけ続けるのは最新のスタックではなく、ユーザーの課題を正しく解決する製品です。デザインマインドセットは、技術チームが正しいことを行うのを助けるだけでなく、組織が持続的に成長し、無駄を避け、真の価値を生み出すことにもつながります。
そのためには、常に「ユーザーは本当に何を必要としているのか?」という問いから始めるべきであり、「どの技術を使うべきか?」ではありません。これが、意味があり、価値があり、長く生き続ける製品を作るための基盤です。
そのためには、常に「ユーザーは本当に何を必要としているのか?」という問いから始めるべきであり、「どの技術を使うべきか?」ではありません。これが、意味があり、価値があり、長く生き続ける製品を作るための基盤です。